八女長野石のこと
date.2025/09/15 category.商品情報
【 大川と八女、地形が育む素材と工芸 】
私たちの家具工場がある大川市は、福岡県の筑後地方南西部に位置します。
熊本県や大分県の山岳地帯から流れる筑後川の下流域であり、有明海へと注ぐ河口の町です。
この地では、筑後川を流れてきた木材を使った造船業が盛んに行われ、その技術が今日の家具製造や組子、建具など、大川の木工業の礎となりました。
同じように筑後周辺を見渡すと、地形や歴史に根ざした素材や工芸が数多くあることに気づきます。そのひとつが、八女市で採掘される凝灰岩「長野石(ながのいし)」。日本庭園を彩る石灯籠に使われてきた天然石です。
近年、住宅事情の変化から石灯籠を見る機会は減ってきましたが、私たちはこの素材の魅力を家具へと生かしてきました。
たとえば、ひとつとして同じもののない石の表情を楽しめるオープンシェルフ。コンパクトな空間にも取り入れやすく、草花の瑞々しい姿と天然石のテクスチャーを同時に味わえるプロダクトです。
このシェルフをきっかけに、住宅メーカーのショールームでは、パウダールーム兼ランドリールームの天板にも長野石を施工させていただきました。日常の空間に、自然の素材感を取り入れる提案が広がっています。
自然の素材感を感じられる天然石、長野石。今回は、八女の長野地区で代々採石されている橋山製作所の橋山さんにお話を伺い、長野石の丁場を見せていただきました。
【 最後となった現役の長野石丁場 】
到着すると、切り出された痕跡を残す石壁が迫力いっぱいに広がり、約7〜9万年前の阿蘇大噴火で形成された凝灰岩の地層を目の当たりにしました。
苔むした壁面には、人の営みと大地の時間が重なり合い、壮大な存在感があります。
「今作業しているところは自分の山で、取られていない側(石の壁)はお隣さん」とのこと。左右の石の壁は、橋山さんが子どもの頃からそのままで、すでに(石工を)辞めてしまったそうです。
「壁に掘られた“平成二年”の文字は、子どもの頃、父といっしょに彫ったもの」
そんな橋山さんのお話からも、この地と石とともに歩んできた時間の重みが伝わります。
山の境界は、昔ながらの方法で杉の木を植えることで示すそうです。単純ながらも、余計なものを持ち込まず、互いに配慮しながら山を守ってきた知恵が息づいています。
【 山からいただく天然素材 】
長野石は、上から切り出していくため、重機を運び入れるための道を土で築き、そこから機械を使って採石します。まさに「山から石を分けていただく」という表現がふさわしい作業でした。
重機や機械がない時代は、地上から斜めに削り取っていたそうです。上部が崩れる恐れもあり、もう下から採ることはないそうですが、以前の作業場所を上から少し撮影させていただきました。
斜めに傾斜がついた岩肌と、静かに伸びる竹だけの景色。人の手だけで切り出していた時代の痕跡からは、長い時間をかけて育まれた荘厳な空気と、静かで深い色彩がありました。息を呑むほど美しかったです。
「昔は山の神様の日には、誰も山に入らないよう、皆で朝から酒盛りをしていた」
橋山さんの言葉からは、山への畏敬の念と、自然と共に生きる人々の知恵が伝わってきます。
【 長野石の手仕事とプロダクト 】
橋山さんの作業場には、灯籠だけでなくカエルや鳥をかたどった石像も並びます。長野石は植物の着生にも適しており、苔むしながらゆっくりと自然に溶け込んでいきます。
今回の訪問を通じて、「石は山の一部であり、時とともに変化し続ける存在」であることを改めて実感しました。山と人とをつないできた長野石は、これからも大切に受け継いでいきたい地域の素材です。
最後に、切り出された長野石の断面、グレーの岩肌を覆う青々とした緑をバックに、橋山さんを撮影。この度は貴重なお話をありがとうございました。
【 八女長野石を用いたプロダクト 】
天体を思わせる天然石の模様から名付けられた、小ぶりなオープンシェルフ NOVA Shelf
異素材の組み合わせを楽しめる収納、 ANEMONE Cafe cabinet 。突板を斜めに張り合わせた矢貼、小石原焼と木製から選べるツマミ、本体の重心をとりつつ素材感を楽しめる石のプレートなど、地域で受け継がれてきた手仕事が織りなす豊かな表情が魅力のキャビネットです。
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